小さい経験を、拡大する。
2度の転職をへて小布施に。コワーキングスペース「HOUSE HOKUSAI」を運営する塩澤耕平さんに、自分の興味の育て方を伺った。
塩澤耕平さん(1987年2月10日生まれ)
学習院大学政治学科卒。NTTデータ、祐ホームクリニックでの勤務を経て、小布施町に移住。現在は、HOUSE HOKUSAI 管理人、Shopify ディレクター、小布施町の地域おこし協力隊。
塩澤さん、大学卒業後はNTTデータに就職されているんですよね。
はい。
どうしてNTTデータに入られたんですか?
就職活動をしていた時期に、学生寮の友人が救急車で運ばれたことがあったんです。私もそこに同行したんですが、当時はまだ東京でも病院の空き情報を電話で確認しているような状況で…。それで医療×ITでもっとできることがあるんじゃないかなと考えて、ITの会社に。
すごい。やりたいことが具体的ですね。
まあ無理やり決めたみたいなところもあって(笑)自分のやるべきことをある程度仮置きしたときに、医療とITかなと思って就職活動をしていた感じですね。
私も就活生なので、その「仮置き」感はすごくリアルです (笑)
結局NTTデータには3年いて、その後は祐ホームクリニックという在宅診療所で5年働いて、2017年の2月に小布施に移住してきました。
2度の転職をへて小布施に。何が最初の転職のきっかけになったのでしょう。
当時社会人3年目で、自分の周りの人たちが起業や転職してどんどん実力をつけてきているかんじがあったんですよね。それで自分の中にも焦りがあって何か次のステップを、って考えていて。それで、震災をきっかけに東北で先進的な活動をしていた祐ホームクリニックに転職を決めたんです。それが、2012年の4月でした。
そうだったんですね。
倒壊した病院の医療ニーズを埋め合わせるために、宮城県石巻市に診療所を建てて、被災した方々を在宅医療やボランティアの力で支えよう、というプロジェクトが祐ホームクリニックで立ち上がったんです。東京や海外から集まってきた人と一緒に新しいものごとを仕掛けていくことにも魅力を感じたし、もっと医療の根幹に近いところで働きたいという気持ちもあって、転職を決めました。
なるほど。「いろんな人と一緒に新しいものごとを仕掛けていく」というところは今のお仕事にも通じていますよね。でもどうして医療関係から今のコワーキングに?
これは今思うとなんですけど、キャリアの中で一時的に役に立つスキルと、自分の中で常に磨かれ続けるスキルってあると思うんです。在宅医療の会社にいたときは、前者のスキルを高めることに一生懸命になりすぎていた感じがして、そういう力のつけ方みたいなところに疑問があったのかもしれないです。
色褪せない力を身につけたくなった、みたいな。
そうそう。たとえば今Wordpressでブログを構築できて仕事になっても、20年後にはたぶん仕事にならないと思います。でももし私が今ロールケーキをおいしく作れたら、そのロールケーキって20年後も売れると思うんです。話を聞く力とか人にお願いする力とかもそうなのかもしれないけど、そういう色褪せない力をつけていきたいなと思ったのかもしれないですね。
なるほど。それでコワーキングスペースをつくろうと?
本当はね、実家の酒屋を改装してカフェをやろうかなと思ってたんですよ。
カフェ??そうだったんですか?
学生時代にスターバックスでバイトしてたのもあって、いつかはカフェをやりたいなと思ってたんですよ。
塩澤さん、スタバでバイトしてたんですね(笑)
そうそう。でも私がやりたかったのは普通のカフェというよりも哲学系カフェで。
哲学系カフェ?
私が勝手にそう呼んでるんですけど(笑)哲学系カフェっていうのは、自分の思いとか考えとか、社会に対する姿勢みたいなものをしっかり打ち出しているカフェ。たとえばはまぐり堂とかKURUMED COFFEEとか。
KURUMED COFFEEは聞いたことがあるような…。
そういう哲学系カフェに「起業」みたいなテーマを掛け合わせたものをやりたかったんですよね。私はこれを「すべての中心となるカフェ」って呼んでいるんだけど、そういうものごとの中心となるような場所をカフェというかたちを通じて作りたいと思っています。
まさにHOUSE HOKUSAIですね。
うん。本当はそういう場所を実家がある駒ヶ根(長野県)にカフェとして作る計画だったんだけど、親の生活を変えてしまうっていうこともあってやめにしたんです。
それで小布施に?
そうそう。会社に辞めますって伝えてしまってからカフェの計画がなくなって、どうしようって思っていたときに友人の大宮透くんの紹介で小布施若者会議に出会って。
ナイスタイミング!
そう(笑)で、そのときの小布施若者会議の中のテーマのひとつが、小布施にクリエイティブな人たちが集まる場所をつくろう、みたいなテーマで、そこからこのHOUSE HOKUSAIができたんです。
そうだったんですね。改めて、HOUSE HOKUSAIってどんな場所なんですか?
平たく言うと宿泊滞在ができるコワーキングスペースです。1階のコワーキングスペースは、個人のお客さんにゲスト利用で使ってもらうだけでなく、会社さんに月額制で席を貸し出したりもしています。2階に町が運営している宿泊場所があるので、そちらに滞在してもらいながら一緒にプロジェクトや事業を考えたりできたらなぁと。
ただ場所を貸す、だけではないんですね。
そう。それがまさにHOUSE HOKUSAIの仕事かなと思っていて、小布施に来てくれた人たちに、小布施で何かテーマを見つけてもらって、それを事業として実現させる、というのをやりたいと思っているんですね。HOUSE HOKUSAIの名前の由来も実はそこにあって。
葛飾北斎のHOKUSAI、ですよね?
そう。北斎って80歳超えてから小布施に何回も来てるんですよ。
えっ、北斎ってそんなに長生きなんですか??
あの人は90歳くらいまで生きてたから江戸時代だと仙人の領域ですね(笑)それだけ北斎が小布施に足を運んでいたのには訳があって、高井鴻山(たかいこうざん)という小布施出身の豪農・豪商が彼に作品のインスピレーションのきっかけやテーマを与えていたからなんですよね。お寺や祭り屋台の天井画を描いてみないか、とかね。
なるほど。そんな北斎みたいな存在を輩出していく場所だからHOKUSAI HOUSE…?
ちょっと大げさだけど、そんなことができたら嬉しいです。小布施に来てくれたひとのスキルや興味を活かせそうなことがあれば、小布施のひとや企業とつないだりして。
それで実際に事業になったものってあるんですか?
まだ事業とまではいかないんですけど、北斎館とアパレルブランドを繋いでアロハシャツを作ったり、栗菓子屋さんと東京のデザイナーさんとのコラボレーションが生まれたりしました。今も電力会社の方や職人さん、学生さんと一緒に瓦型のソーラーパネルを開発するプロジェクトが動いています。
瓦型のソーラーパネル!新しい!
小布施町で自然エネルギーをどんどん活用しよう、っていう流れがあるんですが、小布施町の日本風の建築にそのままソーラーパネルを置いちゃうと景観上あまり良くないですよね。それならいっそ瓦型のソーラーパネルを作ったらいいんじゃないかっていう話になって、今プロトタイプを作ろうとしているところです。
へえ、なんだかワクワクしますね。ここでちょっと自分の仕事を決めるにあたってのテーマの見つけ方、みたいなことについて伺いたいんですが…。塩澤さんでいうところの「ものごとの中心となる場所を作りたい」みたいな自分のテーマってどうやったら見つかると思いますか?
うーん、逆にどう思います?
うーん…。実体験に基づいて自分が切実に必要だと思うこと?が自分のテーマになり得るのかなぁ。そういう意味では塩澤さんのNTTデータの入社理由に近い感じかもしれないです。でも使命感を感じることとやりたいことって必ずしもイコールではないし…。
なるほど、確かに。私、三島由紀夫さんが好きなんですけど、彼が言うには作家になるには2つの能力が必要だって言っていて。
はい。
ひとつは、いかに体験をするかっていうこと。もうひとつは、その体験をいかに解釈して自分の中で大きなものにするかっていうこと。たとえば子ども時代に道の小さな石につまずいて転んだ経験をしたとして、多くの人は気にしませんよね。でも、ある人はそのことがずっと心の引っかかりになって、20年後に路面を自動で平らにする事業を始めるかもしれません。ひとつの経験からどう解釈をしてどう自分の行動に活かしていくかって、その人次第じゃないですか。
そうですね。
自分がした体験に対する感受性に蓋をしないっていうことが自分のテーマを探す上で大事かなと思います。小さくてもいいから自分の中に引っかかっているものを拡大していくこと。何かに違和感を感じたらその理由を考えてみるとか、興味があるなと思ったらそこに行ってみるとか。
なるほど。
私もずっとカフェやりたいって言っていたんだけど、店づくりの仕方やメニューの作り方、事業を続けるための利益率構造とかって、実際にカフェに行って経営者に聞いてみたり、自分でやってみたりしないとわからないですよね。だから興味を感じたら、動くのは本当に大事だと思います。「いつか」って思ってると、その「いつか」はなかなか来ないんじゃないかなと思っています。
なるほど。そう考えると興味って育てるものなのかもしれないですね。最後に学生に何かアドバイスをいただけたら…。
やっぱり自分の中のもやもや、違和感を大事にしてほしいです。現状に不満を持ちながらも、つい言い訳しながら惰性で続けてしまいがちですが、そういうのはクリエイティブじゃないし、そういう状態を変えていく努力が大事だと思います。もちろん、会社を辞めることが正義ってことではないけど。
そうですね。
少なくとも自分の仕事の中で「これはおもしろい!」みたいなものは見つけたいですよね。なかなか見つからないかもしれないけれど、探していく姿勢は持ち続けてほしいかなって。振り返って、学生時代の自分になにか言うとしたら、そういうことかな。
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